松濤明の借金
朝日新聞が今度一部表記を変更するということで、その例として『涛』が『濤』になるというのが挙げられていた。
渋谷区松涛という所があるくらいで、あまり馴染みのない『涛・濤』(とう・なみ)の字だけれど、山をやる人なら松濤明さんを知っているんじゃない。
昭和初期のアルピニストである松濤さんは昭和23年の暮れ、友人と槍ガ岳を目指して北鎌尾根の難所を登るんだけど、悪天候に見舞われて結局この地で遭難してしまうんだ。
このときの日記『風雪のビバーク』は、岳人はもちろん、山を登ったことのない人たちにも涙をもって読まれた名文。
で、これを読み返していたら、その最後に以前は気づかなかったこんな一文が目についた。
有元
井上サンヨリ 2000エンカリ ポケットニアリ
松濤
西糸ヤニ米代借り、3升分
死を覚悟した松濤が、遺族に伝えるために記したのだろう。
この『西糸や』というのは、今も上高地にある山荘『西糸屋』のこと。
上高地というのは北アルプスの登山口であると同時にいまや大変な観光地。
ここで泊まろうとすれば(最高10万円なんていう帝国ホテルは別格としても)普通の所でも2-3万円はするので登山者にはとても泊まれない所なんだけど、この『西糸屋』は別。
僕も前回の大キレット走破の時に世話になった所。たしか1泊2食で7千円くらいだった。
お金のないハイカーにも泊まれるよう低廉な料金の別棟を用意してくれているんだね。
そういう所だから昔からこうした登山家を応援してくれていたんだろうことは推察がついたけれど、あの松濤さんにお米3升を貸してあげていたなんて……。
思わずウルウルしてしまったよ。
冬山の泊まりは寒い。
「氷山の一泊」
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コメント
松濤明さんのことが、書かれていたので、ちょっと補足させていただきます。私は、西糸屋の主です。
高校の山岳部に入ったとき、先輩から、古本屋に行って山の本を買って読めと言われ、最初に手にした本が、なんと「風雪のビバーク」で、最後の「西糸ヤニ米代借り、3升分」が、まさか我が家どは思っていなかったのです。
後日、祖母から、その事と、意味の深さを教わりました。
その頃、家族の中に病人が何人もおり、床に伏していて、お金が無かったのですが、その中で、松濤さんにお貸ししたので、松濤さんにとって、とっても気がかりなことだったのです。
それから、いつも一人でお土産など持ってきたことがない松濤さんが、お土産を持ってきた後、遭難されたとのことでした。
私も、それからは、山に行く前にはあまりいつもと違うことをするのは止めました。
最後になりましたが、お泊りいただき、有難うございました。これからも、山を愛する人に泊まっていただけるような「山宿」であり続けます。
投稿: 上高地西糸屋山荘主 | 2007.02.08 15:04
西糸屋山荘主さま
まさか、直々に西糸屋さんからコメントを頂くとは思いもよりませんでした。
ありがとうございます。
詳しいいきさつはわかりませんが、しかしそんな状況であったのにお米3升というのは相当な量ですね。
あらためて驚いています。
また伺うことがありましたら、よろしくお願いいたします。
コメントありがとうございました。
投稿: ピーちゃんの身元引受人 | 2007.02.08 16:10