吉村昭さんにみる、生き方と死に方
吉村昭さんといえば、とても説得力のある歴史小説を書いた人。
僕も大好きで、「高熱隧道」とか、「漂流」とか、いくつもの作品に感銘させられた。
史実にこだわった綿密な取材で、作家としてのその徹底した生き方はまさに尊敬に値する。
でも今日書きたいのはその死に方だ。
吉村さんが惜しまれつつ「すいぞうガン」で亡くなったのは平成18年のこと。
ところが今日の新聞によれば、その最期は自らの尊厳で選んだ覚悟の死だったとのこと。
奥さんでやはり作家の津村節子さんが明らかにした。
病に倒れてからも「お見舞いなどで関係者に迷惑がかかる」と公表を拒み、延命治療も断って自宅での尊厳死を選んだそうだ。
尊厳死なんて簡単に言うけれど、実際にそういう状況になってしまうと死にたくても死なせてくれないのが現代の医療だろう。
吉村さんの場合は自宅だったので、自ら点滴の管を抜き、ついで首の静脈に埋め込まれたカテーテルポートも引き抜いて、直後に看病していた長女に「死ぬよ」と告げたという。
果たしてそんなこと、自分にできるだろうか。
若い頃は「心中」だの「情死」なんていう言葉に憧れたけれど、これには相手がいないとできないことに気付いた。
自分も重篤な病気になったら延命治療は要らないと家族に言っているけれど、実際にそうなった時、医師は許してくれるんだろうか。
自動車事故なら簡単そうだけど、最近のクルマは安全になりすぎて、これまた容易には死なせてもくれない。
大好きな山で死ねたらいいとも思ったが、遺体が見つからないと生命保険の請求にも差し支えるし、捜索に人の手を煩わせたのでは結局他人にまで迷惑を掛けることになる。
吉村昭さん。
あらためてその生き方、そして死に方に敬意を表します。
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コメント
大好きな吉村昭さんの作品がぱっと目に入ってきました。この高熱隧道と漂流、破船、それから破獄などが好きです。また、このかたの生き様、死に様…すごいと私も思います。
そろそろそんな年齢なのでしょうか、私も、自分の人生を考えるようになりました。このまま?で生き抜くことへの疑問が大きくて、このままで人生をどこかで終えてしまうとしたら、とても悔いを残してしまいそうで、でも、思い切って舵をきったその後は…と。
吉村昭さんの本をまた読み直してみようと思います。
若いころは、渡辺淳一さんの無影灯という本の世界にも惹かれました。(死に様のほうで)
このところずっと本をまともに手にとっていなかった日々に反省至極です。…ああ、なんのおちもない真面目なコメント…久々かも(^_^;)です。
投稿: ぴょん | 2011.04.06 12:54
ぴょんさん
コメントありがとうございます。
「失楽園」のような色恋ものばかりがあまりに有名になってしまった渡辺淳一さんですが、自らが医師だったせいか「無影灯」とか「死化粧」とか、医学ものは読み応えがありましたね。
とりわけ自殺について深い造詣を持った作家。
「阿寒に果つ」でしたっけ、自殺者の死顔が美しいのは、ガス自殺と雪の中での凍死というような説を覚えています。
なお、僕は吉村昭さんと津村節子さんがご夫婦とは(人から教えられるまで)まったく知らなかったおバカであります。
投稿: ピーちゃんの身元引受人 | 2011.04.06 13:52